受贈者(30歳未満に限ります)の教育資金に充てるためにその直系尊属(親や祖父母等)が金銭により金融機関に信託等した場合については、受贈者一人あたりにつき1,500万(学校以外の教育資金については500万円)までは贈与税が非課税となりました。この非課税の特例はH25.4.1からH27.12.31までとされています。
また、贈与する金額は分割でもかまいません。たとえば1年で500万ずつでも可能です。ただし、贈与を受けた後、受贈者が30歳になった時に贈与金額のうち教育資金に充てられなかった金額がある場合は、その残額について贈与税がかかります。
相続税との関連ですが、相続開始前3年以内の贈与財産にこの特例を受けた財産は対象外となっております。
① 二世帯住宅について構造上の要件を撤廃
(現行)2世帯住宅であっても構造上の区分がされず、玄関が一つで中を行き来できる構造であれば、そこに住んでいる親族は同居と扱っております。しかし、構造上区分がある2世帯住宅(住宅内部を壁等で隔て、それぞれの玄関を通じてのみ行き来のできる住宅等)の住宅の敷地については、下記の要件を満たすものを除いて同居とは認められず、小規模宅地等の特例の対象外となっていました。
1)2世帯住宅の所有者は、被相続人又はその親族が所有するものであること
2)被相続人が相続開始の直前に居住用に供していた独立部分以外の独立部分に居住していた親族であること
3)被相続人の配偶者がいない又は、被相続人と同居していた親族がいないこと
(改正後)構造上区分があり、住宅の内部で行き来できない二世帯住宅の敷地であっても、同居しているものと扱われ、小規模宅地等の特例の対象とされました。
たとえば改正後は、親が構造上区分されている賃貸併用の2世帯住宅を建築し、1階を店舗として賃貸し、2階を息子夫婦が、3階を両親が使った場合、2階と3階の部分に対応する部分は特定居住用宅地等の特例の対象となります。
② 老人ホーム入居の場合も小規模宅地等の評価減の適用が可能に
(現行)
老人ホーム等の終身利用権等や所有権等を購入等し、老人ホーム等に入居している場合、自宅は老人ホーム等と扱うため、被相続人の居住の用に供しているとは認められず、小規模宅地等の特例の対象外となっていました。
(改正後)下記の要件を満たす場合は、老人ホーム等の終身利用権等や所有権等を購入等し、老人ホーム等に入居している場合であっても、その被相続人の居住の用に供されなくなった家屋の敷地については、被相続人の居住の用に供されていたものとして小規模宅地等の特例の対象とされました。
1)被相続人に介護が必要なために老人ホームに入居したこと
2)当該家屋が貸付等の用途に供されていないこと
改正前は、終身利用権等や所有権等を購入等し、老人ホーム等に入居したために特定居住用宅地等に該当しないとして小規模宅地等の特例が認められないとされておりましたが、改正後は一定の要件があるものの、安心して老人ホーム等に入居しやすくなると思われます。
① 特定居住用宅地等に係る特例の適用対象面積の拡大
(現行)特定居住用宅地等に係る適用対象面積 240㎡
(改正後)特定居住用宅地等に係る適用対象面積 330㎡
上記の改正はどのようなケースで節税になるでしょうか?
まず、単純に自宅の敷地が240㎡を超える方は節税になります。
たとえば自宅の敷地が400㎡、相続評価額が2億円の場合を考えてみましょう。下記のとおり改正後は評価の引
下げが3,600万円も大きくなっております。
(現行)小規模宅地の評価減の金額 9,600万円
2億円÷400㎡×240㎡×80%=9,600万円
(改正後)小規模宅地の評価減の金額 1億3,200万円
2億円÷400㎡×330㎡×80%=1億3,200万円
その他に、自宅の敷地が240㎡を超える方ではなく他に賃貸マンションなどをお持ちの方も節税となります。
たとえば、自宅の敷地が200㎡、相続税評価額が5,000万円、マンションの敷地が200㎡、相続税評価額が5,000万の場合を考えてみましょう。下記のとおり改正後は評価の引下が563万円も大きくなっております。
(現行)小規模宅地の評価減の金額 4,412万円
(自宅の部分)5,000万円÷200㎡×200㎡×80%=4,000万円
(マンションの部分)5,000万÷200㎡×33㎡×50%=412万円(万円未満切り捨て)
*小規模宅地等の特例の適用にあたり、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、貸付事業用宅地等を併用する場合は下記の計算式から適用面積の限度額を算定します。この例ではマンション部分は33㎡となります。
*A+B×5/3+C×2≦400㎡
A特定事業用宅地等の面積
B特定居住用宅地等の面積
C貸付事業用宅地等の面積
(改正後)小規模宅地の評価減の金額 4,975万円
(自宅の部分)5,000万円÷200㎡×200㎡×80%=4,000万円
(マンションの部分) 5,000万÷200㎡×78㎡×50%=975万円
*小規模宅地等の特例の適用にあたり、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、貸付事業用宅地等を併用する場合は下記の計算式から適用面積の限度額を算定します。この例ではマンション部分は78㎡となります。
*A×200/400+B×200/330+C≦200㎡
A 特定事業用宅地等の面積
B 特定居住用宅地等の面積
C 貸付事業用宅地等の面積
② 特定居住用宅地等と特定事業用宅地等の完全併用が可能に
(現行)小規模宅地等にかかる適用対象面積の限度額 400㎡
(改正後)小規模宅地等にかかる適用対象面積の限度額 730㎡
どのくらいの節税効果があるか考えてみましょう。たとえば自宅の敷地が200㎡、相続税評価額が1億2,000万円、特定事業用の敷地が350㎡、相続税評価額7,000万の場合を考えてみましょう。下記のとおり改正後は評価の引下げが4,544万円も大きくなっております。
(現行)小規模宅地の評価減の金額 1億656万円
(自宅の部分)1億2,000万円÷200㎡×200㎡×80%=9,600万円
(特定事業用部分)7,000万円÷350㎡×66㎡×80%=1,056万
*小規模宅地等の特例の適用にあたり、特定事業用宅地等、特定居住用宅地等、貸付事業用宅地等を併用する場合は下記の計算式から適用面積の限度額を算定します。この例では特定事業部分は66㎡となります。
*A+B×5/3+C×2≦400㎡
(改正後)小規模宅地の評価減の金額 1億5,200万円
(自宅の部分)1億2,000万円÷200㎡×200㎡×80%=9,600万円
(特定事業用部分)7,000万円÷350㎡×350㎡×80%=5,600万
(現行)5,000万+1,000万×法定相続人の数
(改正)3,000万+600万×法定相続人の数
たとえばですが、配偶者、子供が2人の家族の場合の相続の基礎控除は、改正前は8000万(5,000万+1,000万×3)に対し、改正後は4,800万(3,000万+600万×3)となります。
このように基礎控除が現行の6割に縮小されました。財産が基礎控除以下であれば相続税はかかりません。改正前は相続税の申告割合はおおよそ4%だったものが、改正後はおおよそ6%程度に上昇すると言われております。
(現行)相続税の速算表 |
(改正後)相続税の速算表 |
||||
各法定相続人の取得金額 |
税率 |
控除額 |
各法定相続人の取得金額 |
税率 |
控除額 |
1000万円以下 |
10% |
|
1000万円以下 |
10% |
|
3000万円以下 |
15% |
50万円 |
3000万円以下 |
15% |
50万円 |
5000万円以下 |
20% |
200万円 |
5000万円以下 |
20% |
200万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
1億円以下 |
30% |
700万円 |
3億円以下 |
40% |
1700万円 |
2億円以下 |
40% |
1700万円 |
3億円以下 |
45% |
2700万円 |
|||
3億円超 |
50% |
4700万円 |
6億円以下 |
50% |
4200万円 |
6億円超 |
55% |
7200万円 |
赤字が変更箇所です。2億円以上の税率が、かなり上がっているのがわかります。
相続税の税率が6段階から8段階に変更となり、新たに45%、55%の税率が増えました。
たとえば法定相続人が子2人で、遺産総額が6億の場合の相続税ですが、下記のようになり改正後は1,910万円も増税となっているのがかわります。
(現行)
6億-7,000万(基礎控除)=5億3,000万
5億3,000万×1/2(法定相続分)=2億6,500万(この金額に上記の現行の税率が乗じます)
(2億6,500万×40%-1,700万)+(2億6,500万×40%-1,700万)=1億7,800万
(改正後)
6億-4,200万(基礎控除)=5億5,800万
5億5,800万×1/2(法定相続分)=2億7,900万(この金額に上記の改正後の税率が乗じます)
(2億7,900万×45%-2,700万)+(2億7,900万×45%-2,700万)=1億9,710万
(現行) 20歳までの1年につき6万円
(改正後)20歳までの1年につき10万円
(現行) 85歳までの1年につき6万円(特別障害者については12万円)
(改正後)85歳までの1年につき10万円(特別障害者については20万円)
(現行) 贈与税の速算表
基礎控除後の課税価格 |
税率 |
控除額 |
200万円以下 |
10% |
─ |
300万円以下 |
15% |
10万円 |
400万円以下 |
20% |
25万円 |
600万円以下 |
30% |
65万円 |
1000万円以下 |
40% |
125万円 |
1000万円超 |
50% |
225万円 |
(改正後) 贈与税の速算表
右記以外の通常の場合 |
直系尊属→20歳以上の者の場合 |
||||
基礎控除後の課税価格 |
税率 |
控除額 |
基礎控除後の課税価格 |
税率 |
控除額 |
200万円以下 |
10% |
─ |
200万円以下 |
10% |
─ |
300万円以下 |
15% |
10万円 |
400万円以下 |
15% |
10万円 |
400万円以下 |
20% |
25万円 |
600万円以下 |
20% |
30万円 |
600万円以下 |
30% |
65万円 |
1000万円以下 |
30% |
90万円 |
1000万円以下 |
40% |
125万円 |
1500万円以下 |
40% |
190万円 |
1500万円以下 |
45% |
175万円 |
3000万円以下 |
45% |
265万円 |
3000万円以下 |
50% |
250万円 |
4500万円以下 |
50% |
415万円 |
3000万円超 |
55% |
400万円 |
4500万円超 |
55% |
640万円 |
たとえば祖父から20歳以上のものが1,000万円の贈与を受けた場合は下記のようになり、改正後のほうが54万円ほど贈与税が減っています。
(現行) (1,000万-110万)×40%-125万=231万 (現行の贈与税の税率表により算出いたします)
(改正後)(1,000万-110万)×30%-90万=177万 (改正後の直系尊属からの贈与税の税率表により算出いたします)
改正後は、贈与の金額が高額になる場合を除いて贈与税の負担は少なくなりました。高齢者の資産を早期に移転するために贈与税の税率構造が変更され、贈与税の税率が6段階から8段階に変更となり、新たに45%、55%の税率が増えました。
また、20歳以上のものが直系尊属から贈与を受ける場合には、他の場合と比較して低い贈与税率が適用されます。したがって改正後は祖父母や両親からの贈与は現行よりやりやすくなると思われます。
(現行)受贈者は20歳以上の推定相続人である直系卑属
贈与者の年齢は65歳以上であること
(改正後)受贈者の範囲に20歳以上である孫が追加
贈与者の年齢は60歳以上であること
現行は、推定相続人である子供のみが対象でしたが、改正後は孫も相続時精算課税制度の適用が可能となり、通常の暦年課税の方法と選択できるようになります。
たとえば、祖父から20歳以上の孫が3000万円の贈与を受けた場合は下記の通りです。
(現行)贈与税は1,220万円かかります
通常の暦年課税の場合 (現行の贈与税の税率表により算出いたします)
(3,000万-110万)×50%-225万=1,220万
孫については現行では相続時精算課税は選択できない。
(改正後)贈与税は1,035万5,000円または100万円かかります
通常の暦年課税の場合 (改正後の直系尊属からの贈与税の税率表により算出いたします)
(3,000万-110万)×45%-265万=1,035万5,000円
相続時精算課税制度を選択した場合
(3,000万-2,500万)×20%=100万
ただし、孫(代襲相続人である場合を除く)が相続時精算課税制度の適用を受けた場合ですが、相続税額の2割加算の対象となります。
非上場株式等にかかる相続税・贈与税の納税猶予制度の要件等の改正事項は下記のようになっております。
項目 |
内容 |
現行 |
改正後 |
後継者要件 |
先代経営者との関係 |
親族の必要あり |
親族以外も可能 |
先代経営者要件 |
贈与税の納税猶予についてのみ |
役員を退任する必要あり。また、贈与後は給与の支給を受けることができない |
代表権がないこと。また、贈与後は給与の支給を受けることも可能 |
取り消し事由 |
認定有効期間の雇用確保要件(80%以上) |
毎年報告時の基準日に判定 |
5年間の平均により判定 |
事前確認申請 |
経済産業大臣による事前確認 |
必要あり |
必要なし |
納税方法 |
雇用確保要件を満たさなくなったとき |
現金による納付が必要 |
延納、物納が可能 |
その他 |
株券不発行会社の株券の発行 |
株券の発行は必要 |
株券の発行は不要 |
上記の改正により
1)後継者は親族に限らないため、優秀な第3者など幅広く選択できるようになりました。
2)先代経営者は株式の贈与後も給与をもらいながら後継者の育成や援護が可能となりました。
3)以前は、雇用確保要件の判定が毎年の報告時の割合であったため、リーマンショックや大地震など業績の急激な悪化が直接反映されるかたちでしたが、5年間の平均になったことからそういった一時的な影響が緩和されました。
4)事前確認申請が不要になったため先代経営者の事故等のよる急死にも納税猶予の適用が可能となりました。
(改正前)日本国内に住所がない者は、相続もしくは遺贈又は贈与により国外財産を取得しても相続税または贈与税はかかりませんでした。
(改正後)日本国内に住所がない個人で日本国籍がないものであっても、日本国内に住所がある者から相続もしくは遺贈または贈与により取得した海外財産についても相続税または贈与税がかかるようになりました
上記の改正は近年、節税方法として制限納税義務者に該当させるために、日本国籍を離脱し、外国籍をとる節税方法が増えていることに対する対抗策と思われます。
制限納税義務者とは、日本国内に住所を有していないもの(非居住無制限納税義務者に該当する人を除きます。)とされ、相続税または贈与税の対象は国内財産に限るかたちとなっております。
カッコ書きの非居住無制限納税義務者とは、下記のいずれかに該当する日本国籍を有する個人で日本国内に住所がないものです。非居住無制限納税義務者に該当すると、国内財産、国外財産問わず、相続税または贈与税の対象となります。
① 相続または贈与により財産を取得する者が相続の開始前または贈与の5年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがある。
② 被相続人または贈与者が相続の開始前または贈与前の5年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがある。